気がつけば季節が移ろうとしていて、子どもがイヤと云わなくなっていた。
朝から晩まで、つむじのてっぺんから足の小指の爪の先まで、
野鳥の会に数えてもらおうかと思うぐらい
「イヤ!」「イヤ!」「イヤ!」といっていた子が。
あんまりにも「イヤ!」ばかりなので、どうにも我慢できなくなったとき、
「もう、イヤばっかり。
このイヤイヤのスイッチはどこだ?ここ?こっち?」
といいながら、その柔らかい背中やてのひらやふくらはぎやそこここの、
見えないスイッチを押した。
「イヤ!」は止まることもあれば止まらないこともあり、
「こっち(を押して!)」と
リクエストされることもあったけれど。
そうしていれば二人とも笑ってしまって、少しゆるさをとり戻せた。
いまは盗塁を決めようとしているようだ。
そろそろと周囲をうかがいながら、自分のペースを計りながら、
親というベースを離れようとしている。次に進みたがっている。
なにもかも自分でやりたいがまだ覚束なく、
ときどき行き過ぎて不安になり泣く。
「おかーさーん。抱っこぉー」
私は無茶な走塁を牽制するピッチャーで、とにかく走れ走れと腕をぶん回すコーチで、結局のところは信じることしかできない監督だ。
もうスイッチはいらないらしい。「じぶんで(する)!」とはいうけれど、
前の、マシンガンをあてどなく乱射、といった雰囲気ではもういわない。
二人でスイッチを押し合いながらごろごろと転げまわり
げらげらと笑った時間はもう、おしまいだ。
もうちょっとよ、もうちょっとすれば楽になるから。
いろんなひとに云われたけれど、楽になることがこんなにさびしいなんて知らなかった。誰も教えてくれなかった。
私はいま、たぶん、ほんの少し途方にくれている。
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加瀬巡(かせ・じゅん)
1974年生。最近ハマっているのは桜庭一樹とボサノバ。大阪府在住。
WrittenBy: ゲスト投稿
朝から晩まで、つむじのてっぺんから足の小指の爪の先まで、
野鳥の会に数えてもらおうかと思うぐらい
「イヤ!」「イヤ!」「イヤ!」といっていた子が。
あんまりにも「イヤ!」ばかりなので、どうにも我慢できなくなったとき、
「もう、イヤばっかり。
このイヤイヤのスイッチはどこだ?ここ?こっち?」
といいながら、その柔らかい背中やてのひらやふくらはぎやそこここの、
見えないスイッチを押した。
「イヤ!」は止まることもあれば止まらないこともあり、
「こっち(を押して!)」と
リクエストされることもあったけれど。
そうしていれば二人とも笑ってしまって、少しゆるさをとり戻せた。
いまは盗塁を決めようとしているようだ。
そろそろと周囲をうかがいながら、自分のペースを計りながら、
親というベースを離れようとしている。次に進みたがっている。
なにもかも自分でやりたいがまだ覚束なく、
ときどき行き過ぎて不安になり泣く。
「おかーさーん。抱っこぉー」
私は無茶な走塁を牽制するピッチャーで、とにかく走れ走れと腕をぶん回すコーチで、結局のところは信じることしかできない監督だ。
もうスイッチはいらないらしい。「じぶんで(する)!」とはいうけれど、
前の、マシンガンをあてどなく乱射、といった雰囲気ではもういわない。
二人でスイッチを押し合いながらごろごろと転げまわり
げらげらと笑った時間はもう、おしまいだ。
もうちょっとよ、もうちょっとすれば楽になるから。
いろんなひとに云われたけれど、楽になることがこんなにさびしいなんて知らなかった。誰も教えてくれなかった。
私はいま、たぶん、ほんの少し途方にくれている。
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加瀬巡(かせ・じゅん)
1974年生。最近ハマっているのは桜庭一樹とボサノバ。大阪府在住。

