へえ、あんさん、小説を書いていなさるんやて。いやあ、えらいもんだすな。もうなんぼも、ご本は出しておいでですのんやろ。まあまあ、それはそれは、おえらいことでございますなあ。…いやいや、わしら、無学のもんですさかいに、あんさんの書かはったようなもんなんぞは、よう読み下れしませんがな。
わしは小学校かて、そんなもん、牛の世話やら、田の仕事やら、蚕養うやらなんやらで、ろくに行く間もあれしませなんだ。子どもがせなならん仕事なんぞ、どこにでも、なんぼでもありましたさかいになあ…。そやかて、世の中はほんまにえらいこと変わってしもうたもんでございますなあ。おなご衆(し)でも近ごろは、学士さまやら博士さまがおいでるような時代やと聞きますさかいに。おなごが博士にならはる世とは、はや、末恐ろしいことでございますわ。わしらの若い頃とは、えらい変わりようだす。
わしらの時分なんぞは、家を手伝い、親の決めた人に顔もよう知らんままに嫁いでな。そいで一生連れ添うて行くもんやときつう教えられしましたもんです。そやけど、わしの娘時分は立て続けの戦争でなあ。最後の頃なんぞは明日があるちゅうこともよう信じられしませんような世でしたのやで。終戦の御詔勅をラヂオで聞きました時なんぞは、ああもう内地の人間は今日、明日にも死ななあかんのや、と皆で肩寄せ泣いたもんですわ。ほんま、あんさんらは好きなだけ学問して、好いた人に連れおうて、ほんまになんとまあ、結構な時代においでですわなあ。
あれ、こないなとこでお留めだてして失礼なことでございました。この辺りに見かけんお人がお歩きなさるんで、気になって声、かけましたんや。ここらはこの村に住むもんしか地道は歩きしませんのや。町のもんはこなな田舎道はみんな車でしゅううと走りますやろ。そやさかい、よそのお方がほろほろ歩いてなしたら、目えに付くし、気にもなりますのんやて。
そやさかい、知らんお人が歩いてなしたらよう目立つんですわ。そいやからして、ふっと見たあんさんの、あの畦歩いてなさるお姿が、背え高うて、なんや宝塚の少女歌劇みたいなお人やと思いましたんやして。こないな陽い射すとこでは暑うおますやろ。さあさ、こちらへお掛けなして、麦茶でも飲んでいただかしてよ。…これ、さあさ、この桃でも上がられて。井戸で一日冷やしてありますんやで。
ここはほんまに、静かな村でございますさかいに、何のめずらしいもんも、旨いもんもおまへんのやして。昼は畑が青々と光って、夜は蛙が鳴くだけですわ。こないな村に向いて、あんさん何しにお越しやしたんで。
…はあ、静養しにおいでだすか。それはそれは。それでしたら駅前にできたあの温泉宿にいはりますのんか。あの湯はええらしいですなあ。そやけどそんなお体のお人が真夏の昼日中の散歩なんぞかえってからだに毒とちゃいますのんか。失礼ながら、どこかお体がお悪いんだすか。え?はあ、それはいったい、どのよなもんだすか。はあ……それはそれは、そないな病にならはるのんは、おなごが学問しすぎたさかいとちゃいますのんか。まあま、せいだい田舎の空気すうて、気い楽にお持ちなして。せいだい食べて、せいだい寝たら、すぐにようなりますやろ。
わしは小学校かて、そんなもん、牛の世話やら、田の仕事やら、蚕養うやらなんやらで、ろくに行く間もあれしませなんだ。子どもがせなならん仕事なんぞ、どこにでも、なんぼでもありましたさかいになあ…。そやかて、世の中はほんまにえらいこと変わってしもうたもんでございますなあ。おなご衆(し)でも近ごろは、学士さまやら博士さまがおいでるような時代やと聞きますさかいに。おなごが博士にならはる世とは、はや、末恐ろしいことでございますわ。わしらの若い頃とは、えらい変わりようだす。
わしらの時分なんぞは、家を手伝い、親の決めた人に顔もよう知らんままに嫁いでな。そいで一生連れ添うて行くもんやときつう教えられしましたもんです。そやけど、わしの娘時分は立て続けの戦争でなあ。最後の頃なんぞは明日があるちゅうこともよう信じられしませんような世でしたのやで。終戦の御詔勅をラヂオで聞きました時なんぞは、ああもう内地の人間は今日、明日にも死ななあかんのや、と皆で肩寄せ泣いたもんですわ。ほんま、あんさんらは好きなだけ学問して、好いた人に連れおうて、ほんまになんとまあ、結構な時代においでですわなあ。
あれ、こないなとこでお留めだてして失礼なことでございました。この辺りに見かけんお人がお歩きなさるんで、気になって声、かけましたんや。ここらはこの村に住むもんしか地道は歩きしませんのや。町のもんはこなな田舎道はみんな車でしゅううと走りますやろ。そやさかい、よそのお方がほろほろ歩いてなしたら、目えに付くし、気にもなりますのんやて。
そやさかい、知らんお人が歩いてなしたらよう目立つんですわ。そいやからして、ふっと見たあんさんの、あの畦歩いてなさるお姿が、背え高うて、なんや宝塚の少女歌劇みたいなお人やと思いましたんやして。こないな陽い射すとこでは暑うおますやろ。さあさ、こちらへお掛けなして、麦茶でも飲んでいただかしてよ。…これ、さあさ、この桃でも上がられて。井戸で一日冷やしてありますんやで。
ここはほんまに、静かな村でございますさかいに、何のめずらしいもんも、旨いもんもおまへんのやして。昼は畑が青々と光って、夜は蛙が鳴くだけですわ。こないな村に向いて、あんさん何しにお越しやしたんで。
…はあ、静養しにおいでだすか。それはそれは。それでしたら駅前にできたあの温泉宿にいはりますのんか。あの湯はええらしいですなあ。そやけどそんなお体のお人が真夏の昼日中の散歩なんぞかえってからだに毒とちゃいますのんか。失礼ながら、どこかお体がお悪いんだすか。え?はあ、それはいったい、どのよなもんだすか。はあ……それはそれは、そないな病にならはるのんは、おなごが学問しすぎたさかいとちゃいますのんか。まあま、せいだい田舎の空気すうて、気い楽にお持ちなして。せいだい食べて、せいだい寝たら、すぐにようなりますやろ。

