ましゅまろ

Author: 櫻井香萌
ひみつのつみをおかしても
まだあでやかにほほえんでいられるような
そんなお菓子がほしいときには
まっしろなましゅまろがいいでしょう
ジャムのかわりにさみしさを
クリイムのかわりにゆううつを
やさしくくるんだましゅまろがいいでしょう
やわらかなほおのうちがわで
やわらかくとろけた恋の棘が
こころにとどいて薔薇と咲くような
そんなましゅまろがいいでしょう 

Author: 野出侑良
雨が降ればいいと思う
何もかもが尖って痛いこんな日は
雨が降ればいいと思う

灰色の空から迷うことなく落ちてくる
彼等には恐れもためらいもなく
地面へと吸い込まれていく

雨が降ればいいと思う
いつもの景色を隠してくれるから
雨が降ればいいと思う

私はそれを眺めながら
気持ちが静かになっていくのを
じっと待っているから

雨が降ればいいと思う
とろりと溶けていきそうなこんな夜には
雨が降ればいいと思う

ココア

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  • tonx
  • via: flickr
Author: 野出侑良
一人の人間の中には
どれほどの思い出がつまっているのだろう。
毎日少しずつ少しずつ詰まって
風船みたいにふくらんでいって
いつかぱぁんと弾けてしまうのかもしれない。

それが人の終わりなのだとすれば
そのはじけ飛んだ思い出たちは
いったいどこへいくのだろう。

散らばった思い出達を捕まえて
飲み込んでしまえるのならば
きっと心の中がほんのり暖かくなって、
すこしほろにがい気分になる。
その甘さと苦さをココアを飲んで想う。

ココアの香りは思い出の香り。
ココアの色は思い出の深み。
貴方の好きな優しい味。

マカロン

Author: 櫻井香萌
フランボワーズのピンク。ピスタチオのグリーン。レモンのきいろ。マカロンのクリームをゆびですくってひとくち舐める。クリームの香りが残る中にシャンパンをひとくち。ゆっくり飲み下したら、マッチで火を付けてたばこをひとくち。
 マカロンの外皮は舌の熱にしゅわふわと溶ける。固い外皮はゆびを押し当てるとこらえきれないようにざくりと割れる。メレンゲのいろはしろ。まっしろな卵白とまっしろなおさとうでできたメレンゲは自分を受け入れ、自分をなくし、あいてのままに自在に自分のいろをかたどる。かおりをたてる。
 マカロンの香りとざらつきを流すのはシャンパン。すくい取るのはたばこのにがみ。少女のころのリボンの色彩。少女のころのワンピースの記憶。ローランサンが描く少女の頬のいろをしたフランボワーズ。小川のほとりに咲くデイジーのきいろ。五月の風のグリーン。あまい記憶は甘いままに。まなうらにそっととどめて。いまだけはここだけは、そっと泣いてしまいましょう。シャンパンの辛さは涙の香り。たばこの苦みは涙の後味。少女のころを思いながら、もう少女じゃないわたしは、それでもまだ少女のように恋をする。

恋をすること

Author: 櫻井香萌
 少女になったらすこしづつきれいになって恋をして
 おとなになったらきれいな恋のいくつかの果てにむすばれて
 そしてそのままふたりの愛が毛糸の玉のように
 すこしづつふわふわとふくらんで
 あたたかくやわらかい世界の中で
 おひめさまはずっとしあわせに暮らしましたとさ

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CreativeCommons Attribution-NonCommercial-NoDerivs License, alessandro pautasso

 これが子どものころの未来予想図。ディテール一切省略の成果主義的妄想。登場人物限定二名の小劇場。けれどもわたしは少女になってもちっともきれいになどならず、おとなになりかかろうとするころ嵐のような恋にさらわれて、少女から一挙に三段跳びの飛躍の中で、ふと気が付いたらもうおとなだった。
 そしていま。おとなになったおとなのわたしが恋をする。よろこぶ。ねたむ。おどろく。たのしむ。なく。すねる。いらだつ。おそれる。おこる。わらう。いとおしむ。そこには少女でも女でもないわたしがいる。おとなでも子どもでもない、ただの〈わたし〉がそこにいて、ただ目の前の恋をしている。
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